「電力課税に関する論点」『政策空間』(www.policyspace.com 2005年2月12日)

 去る2004年11月5日、環境省から発表された「環境税の具体案」は、環境税の賛成者・反対者を問わず、関係者全体に大きな驚愕と衝撃を与えた。なぜならそれは、事前に同省の中央環境審議会で話し合われていた内容から、大きく様変わりしたものであったからである。

 その中でも電力に対する課税が新たに加えられたことは、関係者、特に電力会社にとっては青天の霹靂であった。同審議会の総合政策・地球環境合同部会地球温暖化対策税制専門委員会報告では、専ら石油・石炭に対する課税を柱とした環境税案が提示されており、また報告書内でも「(補論)電力について」において、「専ら温暖化防止の観点からは、発電過程でCO2を排出していないもの(原子力、水力、風力)に課税することは適切ではない」と述べられており、電力課税自体に対し消極的であったからである。

 もともと電力課税論はにわかに登場したということもあり、精緻な論点整理がされていない。ここでは考えられる諸問題点を挙げながら、今後の議論にとって有益な参考情報となる論点整理を行ないたい。

 環境税による電力課税の問題点としては、大分して二重課税、タックス・オン・タックスの問題と、法定固定税率の問題の二つが挙げられる。

 国民にとっても分かりやすい論点は二重課税論である。租税の原則は公平性追及の観点から、一つの課税対象に複数の税目を設けることをよしとしない。

 電力課税においては、電力生産もしくは販売量に対する電力会社への課税(上流)、電力消費量に対する消費者への課税(下流)という2つの課税段階が考えられる。もし、環境税における電力課税を上流とする場合は、電源開発促進税と重複する二重課税となる。電源開発促進税は主に国の電源立地対策や電源利用対策等のために課されているものであり、温暖化対策のための環境税とは目的が異なるとはいえ、同一課税対象である。更に言えば両方とも国税である。電力課税を下流とする場合は、消費税との二重課税となる。

 また、「タックス・オン・タックス」の問題も発生する。タックス・オン・タックスとは端的に言えば「税に対する課税」という意味である。例えばたばこの場合、メーカーがたばこ税を負担しており、メーカーは原価にたばこ税を足した価格で販売者に卸す。そうして設定された販売価格に消費税は課されるため、消費者は原価に対しての消費税分だけでなく、たばこ税額に対する消費税をも払っていることになる。これがタックス・オン・タックスであるが、消費税はそもそも物品・サービスの消費に応じて課される税であるので、たばこ税相当額に対して消費税が課されるのは税そのものの趣旨に合ってないと言える。

 電力課税を上流で課す場合、その税額分は当然電気料金に転嫁されるので、消費税とタックス・オン・タックスの関係となる。一方下流課税とした場合、消費税とはタックス・オン・タックスにならないと環境省は説明しているが、そもそも電源開発促進税と消費税とはタックス・オン・タックスの関係にあるとも言えるので、下流での電力課税は消費税の増税に等しく、すなわちタックス・オン・タックスを倍化させることになる。

 タックス・オン・タックスの正当性に関しては、1989年の消費税導入時の議論がよい参考となる。当時多くの個別間接税が廃止されたが、一方でそのまま存続し、消費税と併課されたものも少なくない。物品税や入場税、電気税及びガス税は消費に応じて課税をするものであり、消費税とほとんど同一の性格であったがために、税制改正における特定品目から一般品目への移行の中で廃止された。しかしその一方で、同じ消費に対する課税であっても、娯楽施設利用税と料理飲食等消費税のように、地方税として消費地と税収を受ける地方団体との応益課税的な関係が明確であるということから存続したものもある。

 また、たばこ税、酒税も消費に応じた課税ではあるものの、嗜好品課税であること、また、諸外国でも一般消費税に重課している例が多いということで存続した。揮発油税等の目的税も、普通税とは異なり政策目的が明確であり、受益と負担との関係が認められることを理由として、石油税等のエネルギー関係諸税もエネルギー対策の財源確保という側面が強調されて廃止されず、そのままタックス・オン・タックス、二重課税されることとなった。

 ならば、今回の環境税における電力課税はどうか。温暖化対策に特化させるという目的税化をすれば、消費税導入の時の揮発油税等と同じ論理が適用できるのかもしれないが、環境省の環境税案は一般財源である。一部を減税や社会保障費の財源に充てるとしており、非難を免れることは困難である。

 タックス・オン・タックスと並んで、電力課税に関する重要な論点は、固定税率と排出係数との関係である。環境省の環境税案においては1炭素トンあたり2,400円、電気の税率は1キロワット時あたり0.25円とされている。逆算すると、1キロワット時あたりの炭素キロ排出量は約0.104となる。しかし問題なのは、この排出係数が年度によって変動するということである。1990年時の1キロワット時あたり0.115炭素キロに比べ、この数値は毎年徐々に低減してきている。排出係数0.104が定数として一旦法定化されると、今後技術革新や電力会社の努力等により1キロワット時あたり二酸化炭素排出量を減らしたとしても、国会での法改正を経ない限りなんら税負担には影響しないことになる。これは環境税のインセンティブ効果を否定するものである。

 また、よく知られているとおり、2002年度、2003年度は発電所の事故等により原発が長期にわたり停止され、代わりに火力発電が不足電力を補うため例年に比べ多く活用されたため、この両年度は排出係数が著しく高い(2001年度の1キロワット時あたり0.103炭素トンに対し、2002年度−同0.111、2003年度−同0.118)。こうした実際の変動に固定化された法定排出係数は対応できない。  結論としては、電力に課税をする場合、上述の2つの問題が租税論の観点から立ちふさがる。今後の環境税の議論の中で、この電力課税は中心テーマになると思われる。電力課税賛成派・反対派共に、こうした諸論点を検討・整理しながら、議論を進めていかなければならない。